2020年02月

昨日は有給休暇。どさくさに紛れて確定申告を終わらせ、その後遊び惚けた。蒲田の鮨屋で昼呑み、久が原で温泉銭湯、荏原町でマッサージ、武蔵小山でもつ焼き屋と、地元の温泉郷で湯治をした気分。お陰ですっかりリフレッシュ致しましたぞ。コロナ?知るか。平常心で行動していれば恐れる理由も騒ぐ理由もない。

 

ガキの頃のご馳走にハマっている。鉄火丼、かつ丼、オムライス、カツカレー…ハレの日にしか食えなかった一品たち。それぞれで出掛ける店が異なる。共通しているのは、えも言えぬ懐かしさ。鉄火丼は、甘く煮付けたかんぴょうとでんぶ。かつ丼は蓋で蒸らして供する。オムライスはケチャップ味。カツカレーは軽めに揚げた薄い豚肉とどろどろに煮込んだカレー。基本はゲテ風味だけど、高級店にはない昔ながらの職人の技が秘められている。

 

中年になって、高級料亭や星付きのレストランで食べた料理たちは、それは確かに美味かったけど、ほぼ例外なく接待。自分の財布で食べたものではないので、ありがたみが違う。まして国民の血税で高級料理を食している政治家共にこの旨さが分かろう筈もない。働いて稼いだ金で喰らうからこそこのゲテ味が極上のご馳走に化けるのさ。貧乏人こそ文化の担い手であるとの法則は、飲食にも当てはまるのである。

 

おしまい。

定年後に密かに海外放浪の旅を企んでいたところ、昨今のコロナ騒動のせいで早くも頓挫しそうな今日この頃、皆さまいかがお過ごしでしょうか。この騒動について世の中に流布しているガセネタが大混乱を起こしておりますが、ここは冷静に。うがい手洗いマスク励行。人混みや閉鎖空間には近づかないこと。そうして、こまめな水分摂取(お茶ね)。消化に良い食事と十分な睡眠。ストレスは極力避ける。シンプルだけどそれ以上の良策はない。不安を煽るのが目的のネット情報を安易に信用してはいけません。

 

しばらくの間、仕事以外は自宅での引き籠りが多くなるけど、個人的には独りで時間を潰すのは好きなので不自由はない。宅シネや宅オペラや読書や楽器練習の時間を増やそう。此度の騒動を契機として、平成バブル狂乱が完全終息し、令和熟成文化の時代到来。喧騒から静寂への転換。その変化に気づけば混沌の世を乗り切るのもそれほど難しくはない。

 

それにしても。

不安からか感情的になっている人々が多い。日日是好日。明くる朝を無事に迎えられれば十分ではないか。終わらぬ災禍はない。目指すは仏道悟りの境地。

 

おしまい。

トスカの有名なアリア「歌に生き、愛に生き」というアリアがあるでしょ。あるの。

イタリア語だと、”Vissi d’arte, vissi d’amore”。現代ではネトレプコの十八番。

この”vissi”って言葉は、“vivere”(生きる)の遠過去。聞きなれない文法用語だけど、会話で使われることは殆どなく、小説や歴史の本などで過去のことを歴史的事実として記述するときなどに使うのだそうな。「むかぁし、昔の事じゃったそうな。」というニュアンスが含まれる。「歌に生き、愛に生き」は、昨日や一昨日の話ではなく、ずっと昔は歌と愛に生きていたのに…って話で、現在はそうではなくなって哀しいという意味になる。ヴェルディの言葉遣いが時代掛かっていることは以前に書いたが、どうしてどうして、プッチーニもなかなか古い。

トスカの初演は1900(明治33)年。パリで万博やオリンピックが開催されたり、大正天皇が皇太子の時に結婚したり、義和団事件が起きたり。そりゃ昔だわ。

 

日本人でトスカというと…佐藤しのぶさんが亡くなった現在では難しいけど、私なら嘉目真木子さんを挙げますね。イタリア留学前に都立大学のパーシモンホールで聴いた情熱的なトスカは今でも忘れられない。主人公トスカの命を投げ出す覚悟が歌唱全体から溢れ出すような舞台だった。イタリア留学後に帰国して、あっという間にスタアになっちゃった。

しかし、今は若い有望な歌い手さんがたくさんいるので、これからまた新星が現れるかも知れない。それを楽しみにウォッチングを続けよう。

 

おしまい。

昨日は、文京区民参加オペラ「カルメン」@文京シビックホールまで。この演目は大好物で、機会があれば出かけるようにしている。昨日のお目当ては、メゾの丹呉由利子女史。先月の「紅天女」にて、伊賀の局を演じられた。そのときの我が子を思う母の気持ちを歌ったアリアが忘れられない。

カルメンのキャラはひとことでは言い表せない。社会のルールなどどうでもいい。感性で生きる激情型のジプシー。しかし、恋愛には一途。そして妖艶。一瞬で気分が変わるのだから演じるのも難しい。相当の歌唱力と演技力が求められる。

1幕の「ハバネラ」の最初の出だしが大切だ。

 

L'amour est un oiseau rebelle
Que nul ne peut apprivoiser,
Et c'est bien en vain qu'on l'appelle
S'il lui convient de refuser.

 

今後のドラマを左右する大事な一節。このフレーズに、カルメンをどのように演じるかという歌い手の感性が正直に表れる。観客も緊張する場面。

聴いていてため息。日本にこんな素敵なカルメンの歌い手がいて、それを生で聴けた機会に感謝しましたね。

 

それからあとは、お馴染みのアリアが後からあとから聴き手を巻き込んでいった。ホセ(小野弘晴)、ミカエラ(エフゲニア・イエレミッチ)、エスカミーリョ(市川宥一郎)、すべて魅せました。こんなゴージャスなカルメンを区民オペラで開催するのは凄いことだと思った。あっという間の3時間半。

 

終幕後、丹呉さんにもご挨拶できて、ホクホクしながら帰途についた。今年は、良い舞台が続くなぁ。

 

おしまい。

 

現代の東京にアルセーヌ・ルパン(ルパン三世ではなくて)がいたら、何を盗むかね。

 

ある日、警視庁の総監へ一通の手紙が届いた。

 

「一筆啓上仕り候

 明後日、銀座まで極上の至宝頂きに参上致す所存ゆえ予めご連絡申し上げ候

 なお、御庁職員の方々を警備に煩わせるのはもとより拙意にあらず

血税の無駄遣い堅く固辞いたしたく存じ候

 

 警視総監殿

                                                                   アルセーヌ・ルパン 拝             

 

「な、なんだこれは!」

総監は頭から煙出して怒り心頭。警視庁の威信に掛けて、当日いくつかの高級宝石店の周囲を厳重に警備した。

 

一方、歌舞伎座では松本幸四郎が勧進帳を熱演。いつもと別次元の宇宙にでも飛翔するかの如き格段の演技。この風格この口跡まるで亡くなった祖父の芸の生き写し。客はびっくり。幸四郎が化けたぞ。場内「高麗屋!」の掛け声が嵐のように渦巻いた。

ところが、公演後、歌舞伎座の駐車場に停めてあった幸四郎所有の自動車のトランクから、手足を縛られ猿ぐつわをされた正真正銘の松本幸四郎が見つかった。さっき花道で鮮やかな飛び六法とともに去っていったあの弁慶は何者だ。

 

後日、総監宛に一通の書状が届いた。

 

「一筆啓上仕り候

 先日は、歌舞伎座にて先々代幸四郎丈の至宝の芸をこれ盗み

場内より万来の拍手喝采を頂きまことに痛快至極

 盗賊冥利に尽きるとはこの事なり

 深謝致したく候

 

 警視庁 総監殿

                                                                   アルセーヌ・ルパン 拝             

 

総監ひとこと「ルパンめ!」。

 

おしまい。

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